父からの「負けるな!」の言葉

4

小津が予備校に通っている時、小津の父は造船所の仕事がなくなって、慣れない飯場で日雇い人夫として生活していた。ある時姉の誘いで、姉の住む団地に父と一緒に泊まることになった。

酒を飲まない父親は無口で、不甲斐ない自分のせめてもの免罪符に酒を買ったが高い酒は買えなかった。

姉の家族が暮らす団地に着き、孫に囲まれて嬉しそうな父親。
酒がめっきり弱くなって、すぐに眠くなってしまった父親。
小津の夢を追いかけてきたこれまでの過程を振り返り、
早く田舎に帰って親を安心させてくれと懇願する姉。

5

医者を目指す小津に対して何も言わない父。
次の日の朝、姉の団地を出て、新宿駅まで父と電車に乗って移動した。
その移動中も父は無口だった。
6
新宿東口で父と別れることになって、
電車賃を渡そうとする父、それを頑なに断る小津。
別れるまでの最後の信号を待つ父の老いた後ろ姿を見ていると、
「父ちゃん、俺、田舎に帰って親孝行するよ!」
そんな言葉が口から出かけた、その時
7
父親は振り返って、
「負けるな……‼︎」
と言った。その言葉を残して背中を向けて帰っていった。
(子を思う親の想いがビシビシ伝わってくるシーンだった)
見えなくなるまで父の背中を見ている小津。
東京、新宿東口の雑踏の中で、小津は自問自答する。
「俺は本当にやれるのか⁉︎」
「俺は本当に……」
漫画の物語はこの回想の後、国家試験合格の祝杯の深酒がたたって、
東京新宿のビルの陰で吐きながら、冷たいビルの壁にしな垂れかかり、
ハレヤマに向かって「なあ、俺は本当にやれているか……」とつぶやく。
ハレヤマにとっての小津は、常に無念を抱えている存在に見えた。
そして不運な男にも見えた。その無念はハレヤマに受け継がれ、
難しいオペにも果敢にチャレンジしていく医者へと成長を遂げる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
東京では、たくさんの夢が星屑のように散らばっていて、
そのほとんどの夢が形になることもなく散っていってしまう。
ミュージシャンや俳優みたいな大きな夢だけじゃなく、
医者になる、弁護士や会計士になる、といった難易度の高い職種や
その前段階である医学部や法学部のある大学受験にさえ
受からず、夢も見れずに散っているケースはたくさんある。
その叶えられなかった夢への想いはどこに霧散して行ってしまうのだろう。。
年をとり、しぶしぶ働きながら会社帰りに、場末の居酒屋で安酒を飲みながら
「昔は俺も・・」とクダをまき、ビールの泡のように時間が過ぎて行ってしまうのだろうか。
ありえたかもしれない、そんなイメージを想像すると背筋が寒くなってくる。
しかし、小津はその状況で踏ん張り、
夢を叶えた。父の「負けるな」の言葉を胸に。
苦労人の小津にとって、新宿の飲み屋は思い出の場所だった。
国家試験に合格した時、親友のハレヤマと飲んだ祝杯の味は
さぞ美味しかったことだろう。
自分に当てはめてみると、いつのことだろうか。
きっとこのブログを読んでくれている人達にもそういう思い出シーンはあると思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このドクターハーレーを読むとそれまでの思い出が一気に蘇ってくる。
悔しさ、虚しさ、口惜しさ、不安、孤独、情けなさ。
そして今、俺は何を思うか。
人生はたった一度きりだということ。
やり直しはきかない。
自分の決めた道で、チャンスがあるなら
臆さずチャレンジすること。
世の中には、働きながら夜学に通ったり、
新聞配達をしながら予備校に通ったり、
残業続きの眠い目をこすりながら、国家公務員の試験勉強をしたり……
 
向上心だけを頼りに背水の陣で
現実と戦っている人はゴマンと居る。
夢に向かって頑張っている人たちに
「負けるな……‼︎」と言いたいし、
「俺はやれてるか……」
なんていう言葉はどうでもいい。
家族への感謝の気持ちを持ち、幸せという北極星を目指して
今を精一杯やるだけだ。
 
それ以外にない。