人生には夢が叶わないことがあると、子供ながらに知らされること
桜の季節に野球少年達に誘われて、小さなグラウンドに立ち寄った時の話。
誰にだって夢や願望がある。その夢が叶わないことが増えていくことが大人になっていく儀式のようなものかもしれない。
小学生ぐらいの子供だったら、「まだかろうじて努力次第でなりたいものになれるだろう」という願望を持っていいと思う。
しかし……
居残りにランニングをさせられている、劣等生の彼を見てある話を思い出した。
ボブ・グリーンは、米国の新聞や雑誌にコラムを書いていたコラムニストである。
ボブ・グリーンの「野球そして人生の真実」には「人生では夢が叶わないこともある」と、まだ9歳の少年が、少年野球で人生の挫折を味わう話だった。
ちょっとほろ苦い実話だった。
私がスポーツライターになることを夢見て、日夜古今東西の書籍を読み漁り、文章と格闘していた時、
少年スポーツを描いたコラムに出会った。英文で書かれたその文章を、受験勉強時の英語力と辞書を片手に読みこんだ。
『野球そして人生の真実』ボブ・グリーンの作品を引用して、
大まかなストーリーを短縮・加筆すると…
「9歳になる主人公の少年の名はブレット。とりたてて運動神経に優れている訳ではない、女子に人気がある可愛らしい少年だ。
両親にリトルリーグへの入団を強く希望していて、3年粘った結果、両親の許可が下りた。
すでに入団している選手達は、ブレットよりも身体が大きく、野球の技術もそれなりに身に付いている状態だった。その力の差は歴然だった。
ブレットの野球の才能を云々いうのはまだ早いとは思うが、ジャッジをするコーチの目線では使う使わないの基準ははっきりしていて、
今現在の実力が全てだった。自分の想定している試合展開になることがベストで、試合をスムーズに進行できる選手だけで行いたいのは明白だった。
「いつか自分も彼らのようにうまくなるんだ」ブレットはそう思っていた。
しかし、入団してからしばらくすると、ブレットの様子が変わってきたことに両親は気付く。
なかなか試合に出してもらえずに、たまたま与えられたチャンスもものにできなかった。
おまけに打つチャンスをもらった時に、相手の速い球が身体に当たり、あまりの痛さに泣いてしまう有様だった。
ある時ブレットに先発出場のチャンスが訪れた。
「チャンスだ」心の中でブレットは思った筈だ。入団してからというもの、練習開始の4時間も前にユニフォームに着替えていた彼は
その日も誰よりも早くグラウンドに向かった。
守備はライト。少年野球ではサードやショートといった花形ポジションではなく、ライトは下手な人が付くポジションである。
ブレットは一目散にライトに向かって走っていった。これから自分の華やかな野球人生が始まるんだ、というように。
しかし、用事で遅れていたレギュラーが1回の途中で自転車に乗ってやってきた。それを見たコーチはいかにも嬉しそうだった。
1回を終えて戻ってくると、コーチはブレットを交代させた。その日の夢は、それで終わった。
それからのブレットは、もう4時間前にユニフォームに着替えることはなくなった。そして無茶な幻想は抱かなくなった。
家でも野球の話をしなくなった。
ブレットの両親は、この経験の中に教訓を見いだそうとしていた。毎年アメリカ中の何千いう少年が同じようなことを経験する。
夢を信じすぎることが危険であることも分かっている。
しかし、二人が考えたことはそんなことではなく、
自分達の息子は9歳にして自分はたいした人間ではないことを見せつけられた、ということだけ。
だれもがいつかは、そのことを思い知るのだが、ある者は人よりも早く知る。
ある晩、ブレットは両親に、来年の夏は野球をやらないよ、とぽつりと言った。
両親は辛かった。
ブレットの目が、もう前のように輝いてはいなかったからだ。」
『野球そして人生の真実』というボブ・グリーンのストーリーを引用した。
私は夢が叶うことだけが、人生の幸せではないことも分かってくる年齢になった。
大きな夢を目指すことだけが人生じゃない、
日常に潜んでいる幸せを集めていくことだって大切なことだ。
でも、どうせなら一度くらいなりたいと思って努力してきたものに辿り付きたい。小さな夢であっても、小さい頃から憧れている職業だったら、その人にとっては意味のある達成だと思う。
小さなその勝利でしばらくは生き生きと生活できるかもしれない。
黒一色だったオセロゲームで自分の置いた白の駒が縦に横に、白くひっくり返るほど爽快なことかもしれない。
でもその状態が日常になったら、今度はまた黒くひっくり返ることだってある……
夢が叶っても次の夢をまた目指すかもしれないし、たとえ叶わなくても
自分なりの魅力を感じられることと出会えればいいとも思う。
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